連載 研究者インタビュー Vol.3 槌谷 和義

医理工融合エンジニアリング研究を具現化するエンジニアード・プロダクト設計・創製に関する研究

東海大学工学部精密工学科 教授          

東海大学マイクロ・ナノ研究開発センター 所員
槌谷 和義 インタビュー槌谷和義.pdf.

(2020年3月31日掲載, 聞き手 高橋・毛利)

―これまでの研究内容を教えてください。

私は、来予想される高齢者社会において重要になる「人間にやさしい医用機械システム」として、腕時計型の形態を持ち、痛みの無い注射針が自動的に血液を採取し、特定の細胞・酵素により健康インデックスマーカーを捕捉し病変あるいはその予兆を感知し、治癒作業を行う機能を持つ携帯型HMSの開発を行ってきました。その開発を通して、同装置を構成する極細針をナノテクノロジーを用いて創製する技術や痛みの客観的評価法の確立とそれに基づく新規中実型極細針の開発、さらには血液を採取するマイクロポンプの開発を行ってきました。同装置は時計型の形態を有することから、限られた空間内に設置するには寸法に制限があります。したがって、モータや歯車を駆使した機械の“サイズ(寸法)”を“切ったり削ったり”という手法で小型化するには限界があります。そこで、モータや歯車を用いることなく、エネルギを変換することで動く、いわゆる「スマートマテリアル」の設計・開発、特に統計学を利用して有意な因子を明らかにし、設計・開発を行っています。現在では、それらの技術を要素技術として、センサやアクチュエータの設計や創製に関する研究を中心に行っています。

-マイクロ・ナノ研究開発センターでの活動について教えてください。

マイクロ・ナノ研究開発センターでは、理学・工学的見地に基づくエンジニアード・プロダクトの創製として、より良いプロダクトを目標にものづくりを行っています。機能性の向上には、マクロとミクロスケールでの双方向な設計が必要不可欠であります。例えば、機械主要部品あるいは機械の設計をする上での重要要素としては、(1)機械的特性を含む材料の知識、(2)構造設計、(3)加工方法、(4)評価法、であると考え、私たちは、最適設計を行うために、最適解を求めるために近似式を構築し、マクロとミクロスケールでの双方向から統計的な解釈により設計・開発を行っております。具体的には、(2)構造設計に指示をする寸法の範囲内で「ある特性値」を大きく、または小さくすることを技術者は考え、より良いエンジニアード・プロダクトを作り上げて参ります。これを実現するために私たちは、創製したプロダクト評価に関して他チームとの共同研究体制を構築し、本チーム内メンバー間で複数の研究テーマを実施しております。また、他チームメンバーとの情報交換の場を設けて、共同研究テーマを立案し推進しております。

-研究のモチベーションは何ですか??

研究のモーティベーションは、やはり研究を「社会貢献」に活かすことを考えて行動することです。自身が研究対象とするプロダクトの設計・開発への考えは、社会の人たちに、あるいは企業の人たちに必要とされる「もの」と「技術」を生み出すことが社会貢献であると考えております。「もの」の開発は、社会で困っていることを克服することを目的としたものつくりを通して「人の生活を豊かにする」ことができると考えております。また「技術」の開発は、「今までできなかったことをできるようにする」、「やすく速く作れるようにする」といった技術や、「企業が持ってる技術を設備投資を新に行うことなく新しい分野に応用するアイデア」を提案することなどが、ものづくり立国を後押しすることであるとが、社会貢献であると考えております。 「もの」と「技術」を生み出すことを通して、学生への教育に繋げております。

-社会に役立つイノベーションとは。

マイクロ・ナノ研究開発センターは医理工の研究者が集まり、異分野の研究がスタート致しました。現在は医理工のみならず本学が推進している文理融合をテーマとした研究も着々と成果が得られているようです。マイクロ・ナノ研究開発センターの研究スタンスである「学際領域」の研究は、『学』問の『際(きわ)』と書きますが、その「際」を研究の中心へと位置づけており、「イノベーション」へと押し進めていると思います。ここで私が進めたイノベーションは、医工連携を行った「痛みの評価」です。針穿刺時の痛みを数値化することが可能となり、“様々なパラメータを考慮することで、 様々な使用環境に適した“針の設計”が可能になりました。その結果、使用環境条件に適し、社会ニーズに応じたアプリケーションの設計(さらなるセンサ機能付加)が可能になりました。イノベーションとは、きっかけは「あるものとあるものの『足し算』」ですが、結果は「あるものとあるものの『かけ算』」であると私は考えます。そのイのエーションである「かけ算」をさらに推進したいと思います。

-学生の皆さんへメッセージをお願いします。

現実・社会において,「物事を成し遂げることのできる力」を持った人間が社会に必要とされています。大学で何を学んできたのか(成績)よりもむしろ自分に何ができるのか(能力)が重要視されます。座学では知識をたくさん吸収することができます。この「知識の習得」はとても大事ですが、それと同じかもしくはさらに大事な物が「自身に何ができるか」です。知識の忘却は加齢と共に起こりうることですが、参考書や教科書によりそれを補うことができます。しかし「自身に何ができるか」は、技術ですからもし習得すれば忘却することなく、加齢と共に磨き上げられます。例としては、自転車に一度乗れるようになったら、何十年後でも乗り方を忘れることなく乗ることができることと同じ理屈です。また研究課題は、自身の身の回りにたくさんあります。新聞やテレビ、さらにはアルバイト先の仲間との会話にもヒントがあるかもしれません。マイクロ・ナノ研究開発センターは他分野の研究者の集まりです。是非ともいろいろな研究者と交流を深め、様々なことに興味を持って下さい。

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工学部精密工学科 教授 槌谷  和義 (つちや  かずよし)

1999年英国ウォーリック大学大学院 Centre for Nanotechnology and Microengineering専攻修了、Ph.D.。茨城大学 講師(SVBL研究員)、大阪工業大学 研究員を経て、2005年東海大学工学部精密工学科講師、2007年同准教授。2014年より現職。

公益社団法人精密工学会 理事。

医用工学、薄膜工学、を専門とし、学問分野の垣根を越えた医理工連携研究に従事。

Researchmap: https://researchmap.jp/read0127000

Scopus Author ID:

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最近の公刊論文など(抜粋) 槌谷和義

  1. Tsuchiya Kazuyoshi, Aljarf Saad Mohammad, Kaneko Daiki, Kajiwara Kagemasa, Kimura Minoru, Development of one electrode type pH sensor measuring in microscopic region, Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics, vol. 52, no. 3-4, pp. 1417-1424, (2016) 査読有りhttps://doi.org/10.3233/JAE-162139
  2. Ganesh Kumar Mani, Madoka Morohoshi, Yutaka Yasoda, Sho Yokoyama, Hiroshi Kimura and Kazuyoshi Tsuchiya, ZnOBased Microfluidic pH Sensor: A Versatile Approach for Quick Recognition of Circulating Tumor Cells in Blood, Applied materials & Interfaces, 9 (6), pp 5193–5203, (2017) 査読有りhttps://doi.org/10.1021/acsami.6b16261 PDF(関係者のみ)
  3. Ganesh Kumar Mani , Kousei Miyakoda, Asuka Saito, Yutaka Yasoda, Kagemasa Kajiwara, Minoru Kimura, and Kazuyoshi Tsuchiya, Microneedle pH Sensor: Direct, Label-Free, Real-Time Detection of Cerebrospinal Fluid and Bladder pH, Applied materials & Interfaces, 9 (26), pp 21651–21659, (2017) 査読有りhttps://doi.org/10.1021/acsami.7b04225 PDF(関係者のみ)
  4. Yasuhiro Hayakawa, Sankar Ganesh R, Navaneethan M, Ganesh Kumar Mani, Ponnusamy S, K Tsuchiya, Muthamizhchelvan C, S Kawasaki, “Influence of Al doping on the structural, morphological, optical, and gas sensing properties of ZnO nanorods”, Journal of Alloys and Compounds, Volume 698, Pages 555–564, (2017) 査読有りhttps://doi.org/10.1016/j.jallcom.2016.12.187 PDF(関係者のみ)
  5. Veena Mounasamy, Ganesh Kumar Mani, Dhivya Ponnusamy, Kazuyoshi Tsuchiya, Arun K Prasad, SridharanMadanagurusamy, “Template-free synthesis of vanadium sesquioxide (V2O3) nanosheets and their room-temperature sensing performance”, Journal of Materials Chemistry A, Volume 6, Pages 6402-6413, (2018) 査読有りdoi.org/10.1039/C7TA10159G PDF(関係者のみ)
  6. Y Uetsuji, T Wada, K Tsuchiya, “Statistical investigation of homogenized physical properties of polycrystalline multiferroic composites” Acta Mechanica Volume 230, Pages 1387-1401査読有り https://doi.org/10.1007/s00707-017-2018-x PDF(関係者のみ)
  7. Veena Mounasamy, Ganesh Kumar Mani, Dhivya Ponnusamy, Kazuyoshi Tsuchiya, Arun K Prasad, SridharanMadanagurusamy, ‘Network mixed metal oxide (V4+ and Ti4+) nanostructures as potential material for the detection of trimethylamine”, New Journal of Chemistry, Volume 43, Pages 11069-11081, (2019) 査読有https://pubs.rsc.org/en/content/articleland PDF
  8. Parthasarathy Srinivasan, Arockia Jayalatha Kulandaisamy, Ganesh Kumar Mani, K. Jayanth Babu, Kazuyoshi Tsuchiya and John Bosco Balaguru Rayappan, Development of an acetone sensor using nanostructured Co3O4 thin films for exhaled breath analysis, RSC Adv. (IF:3.049), 9, p.30226–30239(2019).https://pubs.rsc.org/en/con PDF
  9. Ganesh Kumar Mani, Yuka Nimura, Kazuyoshi Tsuchiya, Advanced Artificial Electronic Skin Based pH Sensing System for Heatstroke Detection, ACS Sensor(IF:6.944) in printing (2020) https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssensors.  PDF(関係者のみ)
  10. Mounasamy, Ganesh Kumar Mani, Dhivya Ponnusamy, Kazuyoshi Tsuchiya, P.R. Reshma, Arun K. Prasad, SridharanMadanagurusamy, Investigation on CH4 sensing characteristics of hierarchical V2O5 nanoflowers operated at relatively low temperature usingchemiresistive approach, Analytica Chimica Acta (IF:5.256), 1106 p.148-160(2020). http://sapi.x-mol.com/paper/1222784339657379840